2005年10月26日

不定期連載小説「微笑がえし」・第8回「危ない土曜日」その2

 その日も雨が降っていた。梅雨に入るには、まだ少し早いとは思われたが、天気予報で入梅を知らせていた。天気と同じで、千佳子の気分も鬱々したものだった。
 遅れていた吉の原稿もようやく出来上がり、なんとか会報も予定通りに発行できる目処もついた。本当なら、締め切りからの開放感で、千佳子の気分は晴れ晴れするはずだ。しかし、憂鬱な気分が残ったままであった。
 鷹は吉を誘って、男爵の怪しげなバイトに行ったらしい。鷹は見るからに金がないことがわかってしまうが、吉は金に不自由しているようには見えなかったが、高額バイトに参加したらしい。あとで聞いた話だが、
原稿が書き終わったせいか、鷹や吉や他の新入生も、ここ数日部室に顔を出していない。それなのに自分の心が、鷹を求めていることに、千佳子は忌まわしく思っていた。
 そんな思いでいた千佳子の耳に、鷹と金沢の声が聞こえてきた。どうも、鷹は金沢に飯を奢ってもらった様子であった。二人は千佳子一人がいる部室に入ってきた。
「千佳子ちゃん、どうしたの、一人で。」
金沢は千佳子に声をかけた。そして、思いついたように
「あ、そういえば、悪いんだけど、明日の土曜日に会報が刷り上るから、印刷屋に受け取りに行ってもらえないかな。」
尊敬している金沢の頼みごとを、千佳子は断ることができない。それに、土曜日といっても、特に用事があるわけでもなかった。
「はい、いいですよ。」
「ありがとうね。本当なら僕が一緒に生きたいんだけど、チョッと野暮用があってね。代わりに鷹に行ってもらうから。」
その言葉に、千佳子は驚嘆の表情をしてしまったらしい。金沢がすかさずフォローの言葉を言ってきた。
「鷹と二人は嫌かな。」
「トモチカさん、そんなに僕を嫌わないでよ。安心してよ、別にトモチカさんの顔に発射しないから。」
鷹は、人をおちょくったように言った。その言葉に千佳子は怒りを感じたが、それとは別に何か胸が熱くなる自分に、怒りも感じた。
「別に嫌じゃないですよ。でも、明日は危ない土曜日になるわね。」
千佳子は、そっけなく答えた。
posted by 中は切っても発出さん at 23:01| 岐阜 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 微笑がえし | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年10月19日

不定期連載小説「微笑がえし」・第7回「危ない土曜日」その1

 まだ、梅雨に入るには少し早い季節だったが、その日は朝から雨が降っていた。その日は、会報の原稿の追い込みをしていた。締め切りの日は近づいてきているものの、新入生の原稿の進み具合は最悪であった。鷹は持ち前の要領のよさで、自分のノルマは書き終っていたが、吉の原稿が殆ど出来上がっていなかった。
そんな、吉に他の新入生や上級生は苛立ちを覚えていた。しかし千佳子は、吉の原稿の遅さなど気にならなかった。自分の心のもやもやがまだ取れていなかったからだ。鷹のことを好きになったことを、信じたくない自分と、素直に好きと認めたい自分が、交互に現れていた。
 みんなが吉を囲んで、彼の原稿にあれこれ口を出していた時、部室のドアが開いた。ドアの向こうには、40過ぎの少し髪の薄くなった中年がいた。
「男爵さん、お久し振りですね」
千佳子はその男に挨拶をした。その男は、阿成という名前だが、その昔先祖は男爵だった家柄のため、周りからは「男爵」と呼ばれている。男爵はこの会の初代会長でもあり、現在はなにやら芸能関係の仕事をしているらしいが、詳細は不明の男であった。以前、レースクイーンを仕込む仕事をしていたと、千佳子は金沢から聞いたことがあった。
 男爵は、年に2,3度現れては、自分の仕事を手伝うアルバイトを探しに来る。そのアルバイトも、金にはなるが、どこか危ない香のする仕事が多く、会員からは少し恐れられていた。千佳子は以前、男爵にメールアドレスを教えてしまい、何度となく男爵からメールを貰ったことがある。そのメールの内容は非常にマニアックであり、恐怖感を覚え金沢に相談したことがある。金沢は、男爵は若い女の子とかかわりを持つだけが嬉しい人だから、無視しても何にも問題ないよ、とアドバイスしてくれた。何回かメールを無視したら、自然とメールは入ってこなくなった。
「チョッとアルバイトを探しに来たんだけれど。」
男爵は、部室の中を見渡しながら言った。
「今度は、ギャラは弾むけど、精力がいる仕事だよ。」
またまた怪しげなバイトの話を持ってきたのだった。
「いくら貰えるのですか。」
と鷹の声がした。鷹はいつも金欠らしく、先輩に飯を奢ってもらうことが常であった。金になるバイト話に飛びつくのも、当然のことだった。
「頑張れば日当2万円くらいになるね。このバイト一回いくらっていうバイトだから、まあ一日4回が限度かな。」
男爵は、ことさら普通の顔をして話した。しかし、どう誰が聞いても怪しい話だ。一回5千円のバイト、一回いくらってなんのバイトなんだ。千佳子は訝しげな顔をしながら男爵の話を聞いていた。しかし、鷹はただ単に金に釣られたらしく、
「その話いただきます!」
と叫んでいた。千佳子は心の中で、やめて!と叫んでいた。怪しげなバイトに鷹を巻き込みたくなかったのだ。
「ところで、そのバイトどんなバイトなんですか。」
千佳子は口を挟んだ。多分、怪しいバイトだから、内容を聞いて鷹はびっくりして、やらないかもしれない、と千佳子は考えて男爵に聞いてみた。
「千佳子ちゃんもやりたいのかな。でも女の子はダメだよ。だって汁男優だから。」
オイオイ!千佳子は男爵の答えに、返す言葉も失くしていた。
「そりゃ、一石二鳥だ。よろしくお願いします。」
鷹の声に、千佳子は体中の力がなくなりそうになってしまった。こんなおバカに振り回されている自分に情けなさを感じてしまった。
posted by 中は切っても発出さん at 23:12| 岐阜 ☁| Comment(2) | TrackBack(0) | 微笑がえし | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年10月18日

不定期連載小説「微笑がえし」・第6回「ハート泥棒」その3

 打ち合わせも終わり、下宿に帰ろうとする千佳子に、背中から呼び止める声がした。
「千佳子ちゃん、今日はどうしたの。打ち合わせの最中も、なんかぼんやりしていたけど。どこか具合でも悪いの。」
声の主は、会長の金沢だった。顔はイカツイ顔をしているが、細かいところにまで気が回る男である。そういうところが、下級生からの人望も厚い原因の一つだろう。
「いやー、別にどこも悪くないですよ。」
千佳子は至って平静さを装い答えた。でも、胸の中のもやもやは、まだとれていなかった。
「それならいいんだけれど。」
金沢は表情を変えずにそれに答えた。
「ところで、やっぱり新入生はさっきの打ち合わせは退屈だっただろうね。千佳子ちゃんも最初はそうだった?」
会長として、新入生を心配する金沢だが、やはり顔はイカツイ。でも、そんな金沢には安心感が持つことができて、なんでも話せそうな気がした。
「金沢さんは、今の彼女とどうして付き合うようになったのですか?」
千佳子は、唐突に金沢に不躾な質問をしてしまった。それでも、金沢は冷静に答えた。
「うん、彼女とは幼馴染なんだよね。子供の頃から知ってるので、当然最初から恋愛感情なんてなかったんだ。」
金沢は沈着に話す。
「それが、いつの頃からか、彼女に対して、普段と違った感情を持つようになったんだ。それが恋愛感情なんて最初は思っていなかったんだ。でも・・・」
そこまで言って、金沢は急にわれに返り
「なに喋ってんだろう俺。千佳子ちゃんも変な話を振ってくるなよ。」
金沢はコワイ顔ながらも、少し照れているようだ。
「でも、の続きは何なんですか。」
千佳子は少し語気を強めてしまった。
「どうしたんだ、千佳子ちゃん。ひょっとして俺に変な感情を持っているのか?」
と金沢は冗談を言ったつもりだが、千佳子はあまりにも真剣な表情をしていたので、咳払いをして話し始めた。
「まあ、彼女に幼馴染以外の感情を持ち始めると、彼女の一挙一動が気になって仕方がなくなってしまったんだね。彼女の笑顔、怒った顔、悲しげな顔、全てがどうしてなのか知りたくなったんだ。まあ、俺のハートが彼女に盗まれてしまったんだな。」
千佳子は、金沢の意外な一面に、ある意味心が和んだ。ハートが盗まれるなんて、金沢の口からそんな言葉が出てくるとは、少し違和感を持ったが、そんな金沢に千佳子は好感を覚えた。
「まあ、はじめは変な気分なんだけど、それが恋の気分ということに気付いて、二人は付き合うようになったとさ。おしまい、おしまい。」
金沢は、少し恥ずかしくなったのか、話を終わらせてしまった。
「変と恋は字も似ているけど、近いものなんですね。」
千佳子は、一人で納得したように喋った。鷹に対して、ややもすると恋の気分を持っているのだろうか。千佳子は全然タイプでもない鷹に、変な気分を持ってしまったことが、自分自身で納得できなかった。
「恋なんて、いつどうなるかわからないものだよ。千佳子ちゃんも誰かに恋しているのかな。」
金沢は千佳子に訊いてきたが、千佳子はそれには答えずに、
「金沢さん、いい話ゴチソウ様でした。それじゃ、また明日。」
と言って、金沢と別れた。
posted by 中は切っても発出さん at 22:07| 岐阜 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 微笑がえし | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年10月13日

不定期連載小説「微笑がえし」・第5回「ハート泥棒」その2

 打ち合わせは、ほとんど会長と2年生の話で終わってしまった。1年生はその会話を聞いているだけである。それも、無理はないだろう。自分が生まれた頃の歌謡曲の話をされても、ほとんど何を話しているか理解できない。千佳子も昔の歌謡曲は、詳しいと思っていた。友達からは、歳を誤魔化しているんじゃないかと言われていた。しかし、このサークルの先輩たちは、それ以上に知っている。その曲の背景までも(自分たちで勝手に分析した)語ってしまう。そんな連中の会話に、1年生が入れるわけがない。
 案の定、鷹や吉は“この人たち何を喋ってるんだろう”という目で、会長の金沢と2年生の会話を聞いていた。吉は先輩たちの話が理解できているかどうかはわからないが、とりあえず頷いていた。しかし、鷹はいかにも興味なさ気に、指で目を引っ張りながら、眠気を抑えている様である。
 千佳子はそんな鷹の態度が気になって仕方がなかった。確かにわからない話を聞いているのは苦痛かもしれない。自分自身も昨年は同じ思いであった。しかし、そんな中でも、ふてぶてしい態度をとっている鷹の姿に、千佳子は視線を奪われていた。それは、鷹のその不真面目な態度に腹を立てているというわけではなく、千佳子が今まで見たことのないタイプの男であったためである。
 千佳子にとって鷹は、はっきり言って趣味ではない。これまで、千佳子も何人かの男と付き合ったことはある。しかし、根が真面目な千佳子は、これまで付き合った男は、どちらかというと真面目なタイプだった。逆に、不真面目であったりデリカシーのない男は、千佳子の選択肢の中にはなかった。それ故に、本当ならばどちらかといえば、嫌いなタイプに属している鷹に気がいっていることが、千佳子は自分自身で理解できなかった。昔のアイドルの歌じゃないけれど、“そうよ今は変な気分”なのである。
posted by 中は切っても発出さん at 22:54| 岐阜 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 微笑がえし | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年10月11日

不定期連載小説「微笑がえし」・第4回「ハート泥棒」その1

 ゴールデンウイークも終わり、学校に再び賑わいが戻ってきた。しかし、その賑わいはゴールデンウイーク前のものとは少し違っている。新入生も新生活に慣れてきたため、緊張感がなくなっているからだ。時折、夏を思わせるような日もあり、どうしても怠惰な生活に流れてしまうのもこの頃である。また、新生活に慣れず、引きこもってしまう新入生もいる。幸い、この学校ではサークル活動が盛んなため、新入生をいい意味でも悪い意味でもサポートする先輩がいるので、五月病にかかる新入生は少ない。
 千佳子の所属する「歌謡曲研究会」も、6月の本年度1回目の会報の発行の準備で、そろそろ忙しくなってきた。会報といっても、ほとんどがページが会員の好きな歌についてうんちくを書いている、はっきり言って一般学生には読まれないものだ。しかし、その中に毎回、ある年度の歌謡界を振り返るという連載コーナーがある。年度初めのこのコーナーは、新入生が中心に担当し2年生がサポートする規則になっている。
 千佳子は昨年このコーナーを担当した時は、1978年を振り返るものだった。1978年といえば、4月にキャンディーズが後楽園球場で解散コンサートをした年である。千佳子はキャンディーズについてのうんちくを書いた。はっきり言って、千佳子の生まれる前のことであり、テレビの懐かしの歌番組でしか見たことはなかった。しかし、拓郎ばかの父親が、キャンディーズのファンでもあったらしく、キャンディーズの歌は子供の頃から聴かされていた(「アン・ドゥ・トロワ」は拓郎の作曲だったのも影響しているかも)。
 今回は、顧問の中さんを意識してか、おニャン子結成20年ということで、1985年ということに決まっていた。1985年といえば、千佳子の生まれた年でもある。阪神タイガースも優勝し、日航機が墜落し、そして「金妻V」が大ヒットした年である。なにかと話題につきない年だ。

 今日の放課後は、1年生と会報のコーナーについての打ち合わせの日である。ゴールデンウイーク明けの始めての活動であり、サークル仲間に会うのも10日振りである。千佳子は少し考えながら部室に向かっていた。それは入学式後のピローに対しての感情である。男好きのピローに対して、千佳子は女として汚らわしいと思っている。しかし、恋愛は自由であり、ピローが誰と付き合おうが、千佳子にとっては全く関係ないことである。だから、ピローの男に対する態度に好感は持っていないが、かといって特に何の感情も持っていない。でも、入学式の後、鷹に対してとったピローの行動が、それはいつもと同じものなのだが、なぜか腹立たしく感じた。そんな自分がわからなかった。

部室には鷹と吉は来ており、そして何故かサークル活動から引退した4年生のピローが、二人に挟まれてお色気トークをしていた。そんな三人を見て、千佳子は思わず
「ピローさん、これから打ち合わせなので、その二人を返してもらえませんか。」
と、とげとげしく言ってしまった。そんな言葉を発した自分に、千佳子は困惑してしまった。
「あら、千佳子さん、ゴメンナサイね。私、若い男の子が好きなのよ。千佳子さんも年下好み」
と、少し不満げにピローは言った。
「ご、ごめんなさい。生意気なこと言っちゃって。別にピローさんの邪魔をする気はナイのですが・・・。」
千佳子は焦って、言葉に詰まってしまった。その時
「おーい、打ち合わせやるから喫茶に来いよ!」
と、会長の金沢の声がした。
「あ、すいません。ピローさん、打ち合わせに行きますので。鷹君も吉君も一緒に行くわよ。」
これ幸いと、千佳子は鷹と吉を連れてその場を立ち去った。
posted by 中は切っても発出さん at 22:38| 岐阜 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 微笑がえし | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年10月09日

不定期連載小説「微笑がえし」・第3回「年下の男の子」その3

 入学式がおこなわれている講堂の前には、各サークルが新入生勧誘活動の準備に追われていた。千佳子は自分のサークルのメンバーを見つけると、少しバツが悪そうに近づいていった。
「遅れてスイマセン。学校に来る途中で、自転車がコケチャッたんで。」
そんな千佳子の言い訳を聞いている暇もないかの、
「早く準備手伝ってよ」
と、上級生の声に、少し焦りながら千佳子は準備にとりかかった。

 入学式も終わり、新入生たちは続々と講堂から出てきた。そして、各サークルの激しい勧誘活動に戸惑いの表情を浮かべ、各サークルのブースを見回っている。千佳子は、昨年自分も迷いながらサークル選びしていたことを思い出した。
 千佳子が歌謡曲研究会に入会したのは、現在の会長である金沢の、「このサークルに入ったら、音楽CDがタダでもらえるよ」という一言だった。金沢は音楽通でもあるが、異常なパソコンマニアでもあり、違法ダウンロードし放題で、音楽CD作成なんて朝飯前であった。発売当日の新曲でも、ネット上では簡単に出回っているらしく、千佳子はこのサークルに入ってからというもの、お金を出してCDを購入することがほとんどなくなった。
 千佳子の父親は、学生時代フォークにはまっていたらしく、当時は肩まで髪を伸ばしてフォークギターを抱えていたらしい。母親はテニスラケットを抱え、思いっきり天地真理だったそうだ。そんな母親に父親が強引にアタックし、「僕の髪が肩まで伸びて」結婚したという、拓郎バカだったという話を聞いたことがある。そんな両親の影響もあり、千佳子は小学校に入る前から、フォークや歌謡曲に染まっていた。千佳子にはメリット十分のサークルだったのである。

「みなさん、入会希望の吉君ですよ〜。」
と、フェロモンを撒き散らして、ピローが長身の優男と腕を組み歩いてきた。さすが男好きのピローだけあって、すぐに男をゲットしてきた。ピローに捕まってサークルに入ってきたメンバーも少なくはない。今年も本領発揮だった。
「他の皆さんも、頑張って勧誘してくださいね。」
金沢はメンバーに気合を入れていた。
「トモチカさん。」
その時、千佳子の耳に少し前に聞いたことがある声が入ってきた。振り向くとそこには、先程ぶつかった鷹がいた。入学式が終わったばかりというのに、なぜか真っ赤なリンゴを頬張っている。
「約束どおり、来てあげたよ。これでさっきの借りはチャラだぜ。」
鷹は新入生とは思えないほど、ふてぶてしく話しかけてきた。今、ピローが勧誘してきた新入生とは天と地ほどの違いがある。
「千佳子さんもゲットしたのね。あら、かわいい男の子ね。私、年下の男の子も、だ〜い好きよ。」
ピローは相変わらず、フェロモンムンムンで話しかけてきた。
「とりあえず、この後歓迎会があるから、待っていてね。」
千佳子はピローを遮るように、鷹につっけんどんに話しかけた。ピローに対して少しライバル心を抱いた自分もいやになったこともあり、普通よりもつっけんどんな話し方になってしまったのだ。
「トモチカさんはどうでもいいけど、お色気満点のお姉さまがいるから、もちろん入会させてもらうよ。」
鷹の股間を蹴り上げたくなる気持ちを抑え、千佳子は
「とりあえず、ありがとうね。」
と、引きつった顔で鷹に礼を述べた
posted by 中は切っても発出さん at 00:09| 岐阜 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 微笑がえし | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年10月05日

不定期連載小説「微笑がえし」・第2回「年下の男の子」その2

 大学の構内は、新入生の勧誘活動の準備のためか、普段にはない賑わいであった。そんななか、千佳子は先ほどケガした足を少し引きずりながら、久し振りの賑わいを楽しみながら、サークルの部室へと向かっていた。
 部室に入ると、
「千佳子さん遅かったのね。」
と甘ったるい女性の声が聞こえた。その声の持ち主は今年4年生の枕崎だった。フェロモン満開の彼女は、数多くの男との噂が絶えない女性であった。枕崎という名前と、付き合っている男たちとピロートーク(枕話)をしているのではという憶測から、彼女はピローちゃんと呼ばれている。
「あら、膝から血が出ているわよ。はやく消毒しなきゃ。」
枕崎は表面は心配そうに言った。
「それなら、俺が口で吸い取ってやるよ。」
と、口をタコにして現れた男がいた。その男は、中さんと呼ばれている中年男だ。中村という名前で、今は親の税理士事務所を引き継いではいるが仕事は他の従業員が中心にこなしているらしい。このサークルの創設期のメンバーであり、暇ももてあましているということで、このサークルの顧問のような形で、行事の時には現れる男である。俺は大人になんかなりたくない、なんて尾崎豊のような戯言を今でも言いながら、ひたすらおニャン子クラブを思い続けるおたく男である。
「中さん、若い子に気持ち悪いことを言っちゃダメでしょ。」
ピローは中さんを嗜め、手で追い払った。
「千佳子ちゃん、傷の手当をしたら、他のメンバーは勧誘活動の準備をしているから、そちらに行ってあげて。」
冷静な声で千佳子に話しかけたのは、このサークルの会長の金沢であった。千佳子はピローに消毒をしてもらい、少し足を引き摺りながら部室を後にした。
posted by 中は切っても発出さん at 23:50| 岐阜 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 微笑がえし | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

不定期連載小説「微笑がえし」・第1回「年下の男の子」その1

 お城の桜は、ハラハラ散っていた。
千佳子は昨年自分が満開の桜の中、初めてこの見知らぬ土地での生活を始めたことを思い出していた。
高校を卒業し、この地方都市にある大学に入学。
初めての一人暮らしに不安を感じながら、満開の桜の中、入学式に向かっていた自分がこの場所にいた。
少し肌寒さを感じながら、桜を楽しむ余裕もなかった自分を思い出し、千佳子は少し可笑しさを感じた。
それに比べ、今年は春が訪れるのが少し早く、風は生温い。
昨年に比べると緊張感を感じないのは、そんな季節のせいかもしれない。
 桜吹雪の中、千佳子は自転車のペダルを踏みながら、学校へと急いだ。
入学式の終了後のサークルの新入生の勧誘活動の打ち合わせが始まる時刻が迫っている。
この学校は、地方都市にあるため、他に大学もなく、遊ぶ場所も少なく、サークル活動だけが交友の場になっている。
新入生は入学式終了後に、必ずどこかのサークルに一旦入らなければいけないという、おかしな伝統がある。
新入生の勧誘活動も激しい。

 急ぐ千佳子の前に、急に人が横切った。
千佳子は急ブレーキをかけたが、こらえきれず転倒してしまった。
「あぶないじゃない!」
千佳子は思わず叫んでしまった。
「入学式に間に合わないので、急いでいるんだ。」
その男はそう言って、その場を立ち去ろうとしている。
千佳子は足に痛みを感じた。
膝から血が出ている。
「待ちなさいよ!ケガしたわよ!」
千佳子はその男を呼び止めた。
その男は、ネイビーブルーのTシャツにジャケットを羽織りジーンズという、とても入学式にそぐわない格好をしている。
男は面倒くさそうに千佳子に近寄った。
「擦りむいただけだろ。大袈裟な女だな。」
といいつつ、ボタンの取れているボタンから、汚れて丸めてあるハンカチを取り出し、そのハンカチにつばをつけて、千佳子の膝に近づけた。
「ちょっと、そんな汚いハンカチで拭かないでよ。」
千佳子は、その男の手を振りのけた。
「あなた、本当に新入生なの。そんな汚い格好して、入学式に出るつもりなの。」
「うるさいなあ、そんなの俺の勝手だろ。」
その男は投げ捨てるように言葉を発した。
千佳子はその時、この男をとりあえず自分のサークルに入れることを思いついた。
先輩から必ず一人は新入生を勧誘するように言われていたからだ。
「まあいいわ。あなた新入生なら、この学校は必ずサークルに入らなければいけないこと知っているでしょ。私をケガさせた償いとして、私のサークルにとりあえず顔を出しなさいよ。私のサークルは歌謡曲研究会よ。歌謡曲研究会の友田千佳子よ。」
「トモダチカコ?トモチカか。」
「失礼な言い方しないで。あなたはなんていう名前なの。」
「俺は加藤鷹雄。鷹と呼んでくれ。」
鷹は両手の人差し指と中指を立て、その両手をクロスさせるという、訳がわからないポーズを決めながら言った。
「もう、入学式が始まるから、俺は行くぜ。」
鷹はそう言い終らないうちに走っていった。
「絶対来るのよ!」
千佳子は鷹の背中に叫んでいた。

※この物語はフィクションであり、登場人物・団体は実在の人物・団体とは一切関係ありません。あしからず。
posted by 中は切っても発出さん at 00:14| 岐阜 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 微笑がえし | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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